顕微鏡でのぞいた塩や雪のように、結晶の華が器の上を舞う…。熊本はもとより、日本でも馴染みの少ないこの焼物は、亜鉛華結晶釉は、和にも洋にもあわせやすく、全国のギャラリーでも人気だ。この焼物が作られているのは、人里離れた阿蘇郡産山村。空き家になって40年以上経っていた古い民家を買い取り改造し、1999年に住まいと焼物の工房を構えた。実は生まれも育ちも生粋の京都出身でOLをしていたというから、まるでドラマのような展開の人生にも興味がわいてしまう。窯元で修行中に、ある情報誌で今の家が売り出されていることを知り、さっそく熊本へ。父の実家が水俣だったこともあり、馴染みのある熊本での暮らしに迷いはなかった。「最初は屋根の代わりにビニールシートがかかった状態。トイレやお風呂もなくて、住む状態にするまで一苦労でした。地元の大工さんに協力してもらいながら、自分で地面を掘ったりして、なんとか修復したんです」熊本を新天地として独立するにあたり、熊本特有の材料で焼物を作りたいと目をつけたのが、良質な陶磁器原料として全国的にも知られる天草陶石だった。この天草陶石を用いた器を約1,000℃で素焼きしたあと、亜鉛を混ぜた釉薬をスプレーで吹きかけて本焼きに。亜鉛はそのまま焼くとザラザラしているが、釉薬にガラス分を混ぜることで亜鉛とガラスが結合し、ガラス質の中に美しい結晶の華を生み出す。