インタビュー記事(2010年頃)
コンセプチュアルな連作「ONEorALL」シリーズで日本陶芸展をはじめとする数々の受賞を果たした陶芸家・松竹純さん。「陶芸を始めたのは、成り行きなんですよ。」という意外な言葉から始まった。「工房でそば屋を併設していますが、以前はこちらが本業。バブルで下火になってきたころ、陶芸家の友人から“陶芸の材料を売る仕事をしたら?”と勧められて、陶芸の材料を売る仕事を始めたんです」材料の知識を覚え、たくさんの陶芸家の工房をまわる中で、陶芸の技術を自然に覚えていったという。「通常は誰かに師事して体で覚えるのでしょうけど、僕の場合は、よその工房の技を“つまみ食い”させてもらって(笑)、あとは毎日粘土をいじって練習しました」
松竹さんの作品は、釉薬を使わない焼締の技法を使った器が多い。工房には食器や花器などが並ぶが、なかでも遊び心のある花器は茶人からの人気が高い。また、ライフワークとして約5年のスパンでコンセプチュアルな大作も展開している。
「“こんなカタチを作ろう”と決めて作ることには限界を感じるんですよ。おおまかなイメージはありますが、作っていく過程で生まれてくるものも多いんですよ。体が覚えているリズムから立ち上がったものが、結果的にカタチになっているんです」現在取りかかっているのは、信楽の粘土を彫りながら造形していくシリーズ。円の波及が等間隔で双方から広がりながら凹凸を描き、中心部ではダイヤ形となって終結する。作品名を「双円の波及」と名付けた。「私の作品ということを認知してもらえるものを作っていきたいですね。繊細な作り方もあるのでしょうが、僕は陶芸を始めたのが遅かったのでそうした技を今から身に付けるのは難しいし、もっとほかに焼物のおもしろさがあるんじゃないかと。焼物には型物(かたもの)や紐づくりといった決まった技法しかない中で、粘土を触ったときの感覚をどう生かしていくかが難しく、楽しさでもある。僕の場合、美術品ではなく、あくまで工芸品を作り続けたいですね」シンプルながら力のこもった作品は型にはまらず、見る人を惹き付ける。「作品が評価されたり上手くいくとそこに執着したくなりますが、それでは進化が止ってしまう。自分の技術を“壊す勇気”を持ち続けたいですね」