田原 弓

【陶磁器】
田原 弓(たはら ゆみ)
田原弓陶房 美歩志窯(みほしがま)
-熊本市-

 

1949年福岡県大牟田市生まれ
20歳で二川焼の復興を目指すメンバーの一員となり角吾市氏、小山富士男氏に師事
8年間修行の後、熊本県荒尾市で独立
南関町に移転して現在に至る
くまもと阪神での個展をはじめ、熊本県伝統工芸館では陶芸家4人で結成する「蕊(しべ)の会」によるグループ展を開催

田原 弓

焼締(やきしめ)は、何日もかけて火を絶やさずくべ続ける上に仕上がりの見当がつけにくいものです。根気と体力を必要とするやっかいな焼き物ともいえますが、この焼締に魅せられて追究してきたのが「美歩志(みほし)窯」の田原弓さんです。
もともと絵を描くのが好きだったという田原さん。刷毛目(はけめ)に絵付けを施した二川(ふたがわ)焼の復興を目指すメンバーの一員として声をかけられ、陶芸の道へ。その後、師匠・小山富士男さんの影響を受け、焼締を作陶の中心としてきました。独立後荒尾市に窯を開いたものの、約1週間かけて窯を燃やし続けることもあり、人里離れた現在の山中へと窯を移築しました。
焼締は釉薬や絵付けなどを施さないぶん、焼成が全てを決めます。土は1,300℃まで上昇する熱に長時間耐えられるものを三重県の伊賀から調達。使う窯は焼締に向いた半地下式穴窯です。通常の登り窯と比べて熱効率は良くないのですが、下の土全体を温めてくれます。長時間じっくり焼成した後、大地の湿気とともにゆっくりと冷めていきます。地上式の窯よりも時間がかかるぶん、他の窯では出せない微妙な風合いが生まれるといいます。そして焼成には、赤松の薪が欠かせません。火をくべて1分と持たない杉と比べて、赤松だと約3倍の時間火力を保ってくれます。「薪のくべ方や窯詰めが“景色”を作ります。火の回り具合を計算しながら器の置き方を決めますが、ある程度の色合いは出せてもなかなか思うようには出来ません」。長い年月数えきれないほどの焼締の器と向き合ってきた田原さんの言葉だけに、その奥深さを思い知らされます。
焼締の他にも、倒炎式の単窯による炭化焼成の作品も手がけています。地元の土や鉄分を調合して生まれたチョコレート色に白く対比する象嵌のコントラストが、焼締とは違った魅力を醸し出します。香炉や一輪挿しなど、一つ飾るだけで華やいだ気分になれそうです。