main_6637.JPG【刃物】
則光刃物店
川村 勝行-人吉市-
1944年生まれ。「則光刃物店」の創業者で父・一栄氏のもとで修行した後、父の急逝で2代目として独立。四国に足繁く通って土佐刃物の歴史や技術を学ぶ。父と同じく、熊本県伝統的工芸品の指定者を受ける。贈答用からプロ仕様まで、さまざまな刃物を製作している

 人吉・球磨地方の手打ち鍛冶の歴史は、鎌倉幕府の地頭として遠州(静岡県)より赴任して来た相良公が、遠州と当地の技法をあわせた独特の鍛冶技術を編み出させたのが始まりとされる。熊本県南部に位置する人吉は、四方を山々に囲まれ、昔から林業や農業と並んで狩猟が暮らしの糧となってきた。それに伴い山林刃物、農機具が独自に発達。人吉球磨刃物として現在に至っている。

 「則光刃物店」の初代・川村一栄(かずえい)さんは土佐刃物で有名な四国へ修行に出向き、厳しい修行ののち、師匠から「則光」の名を授かり帰郷。昭和5年、人吉市の静かな城下町で仕事を始めた。太平洋戦争を経て再び鍛冶業を始めると、山林刃物や農機具などを次々と製作。多くの弟子が住み込みで修行するほど需要もあったという。現在、二代目として伝統を継承しているのが勝行さん。熊本県伝統的工芸品の指定を受けて高く評価された一栄さんだったが1987年、仕事中に負傷して他界。「以来、一人で鍛冶場を守ってきました」。

 20年ほど前までは造林鎌をはじめ斧、鉈など山林用の道具が主要生産品だったが、現在は需要が減って包丁等の刃物が中心に。最近は、アウトドア用の腰鉈も人気という。昔ながらの技法を守りつつ、現代のニーズを取り入れる。その好例として、柄腐れ防止の工夫をした和洋ミックス包丁が品薄状態の人気ぶりだ。柄に入る部分は柄腐れしにくいステンレス。刃は切れ味の優れた極軟鋼に鋼を割込んだもので、これらを溶接技術で接合して両者の利点を生かした包丁を完成させた。

 「鉄だけだと柄の中で鉄が錆びて抜けにくくなりますが、ステンレスは変形や錆びない半面、接着剤だけでは柄から刃が外れる心配も。そこでリベットという留め金で柄に固定させました。」

もう一つ、その美しさに思わず目を奪われたのが、出刃包丁。刃先には7層の波線が層を成し、まるで日本刀のような美しさを放つ。極軟鋼と硬鉄を何層も重ねた特殊な鉄を特別に注文して使っているという。持ち手の柄も、朴の木の芯、牛角など使うのが惜しくなるほど。

 材料と同様、製作にもこだわりがある。刃を強靭にするために不可欠な焼入れには、今では貴重な木炭を燃料として使用。刃を冷却させる水は、麦飯石の粒を入れた蒸留水をヒーターで調整しながら最適の水温にキープ。少なくなれば継ぎ足し、大切に使っている。

 一人には広すぎるほどの鍛冶場だが、店頭を見回してみると意外にも商品が少ない。置くそばから売れてゆくというから嬉しい悲鳴だ。ちょうど取材中に訪れたお客さんは、水俣市から車を走らせて来たという。「ほとんどがクチコミで、実際に使ったお客様が紹介して下さるんですよ」と勝行さんは嬉しそうに笑う。良い仕事をしていれは、客足は途絶えない。商売が長年続くための在り方が根付いていた。

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左から、刃物の原料となる極軟鋼と間に挟み込む鋼。作る刃物によって厚さも幅も異なる

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サンドイッチ式で極軟鋼に鋼を挟んだ状態。刃も峰も鋼が入る。獣をさばくナイフなどに使われる

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和洋ミックス包丁【※作家さん所有の作品です】