main_5393.JPG人吉・球磨刃物
栗須鍛冶工房
栗須 敦志(くりす あつし)-球磨郡湯前町-
1941年宮崎県児湯郡西米良村生まれ。中学卒業後、先代が営む「栗須鍛冶工場」へ弟子入り。その後、養子となって2代目を継ぐ。上球磨方面で盛んだった山仕事用の山師道具から、生活様式にあわせて家庭用包丁なども手がける

 九州山脈の山間に位置する人吉・球磨地方。ここでは相良藩時代から山林用の山師道具を作る鍛冶職人たちによって、手打ち刃物の技術が高められてきた。現在も多くの鍛冶職人がこの地域に集まっている全国的にも珍しい場所だ。そんな鍛冶場の火を守る一人が、栗須敦志さん。栗須さんは中学を卒業後、「栗須鍛冶工場」へと弟子入り。その後、後継ぎのいなかった先代に気に入られ、養子となって2代目に。かつては、上球磨方面で栄えた山仕事用の道具専門だった。今もナタ、斧、鎌など作っているが年々需要は減り続け、生活様式の変化にあわせて家庭用包丁や、竹細工のフチ巻きに使う道具なども手がけている。

 長い鉄棒を刃物の寸法を予測して裁断し、真っ赤になるまで高温で焼いて軟らかくしてから、中央を割り込んでハガネを差し込む。ここへ接着剤がわりに鉄ろうを振りかけ、小槌で叩いて伸ばしながら型造り。今でこそベルトハンマーを併用して一人での作業が可能となったが、昔は2人で向かい合いながら手打ちする作業だったため、時間も労力もかかったという。こうして刃のカタチができたら、磨いて焼き入れ。この焼き入れがとくに大切で、外側の鉄は適度な硬さを保ったままハガネの部分だけが頑強となる。

「作業の中でも一番気を使うのが焼き入れですね。どこの鍛冶場も同じだと思いますが、やり方は企業秘密。ハガネを急冷する際、近代化学で出来た鉛や油などを使う業者もありますが、私ところでは一定温度の水に浸漬する昔ながらのやり方を守っています。」

 砥石で磨いて本仕上げを行い、錆び止めのニスを塗って柄を取り付ければ、切れ味鋭く刃こぼれしにくい刃物が完成。いわゆる昔ながらの割込み鍛造だ。これは一般的な両刃の工程だが、片刃だと片面がハガネとなる。

 包丁にとってガスの直火や食器乾燥機による過度な熱は厳禁で、冷凍物を切りたいときは沸騰させたお湯で包丁を温めて切るのがコツだという。せっかく硬くした鉄が再び軟化してしまい、焼き入れする前の状態に戻ってしまうのだ。また、包丁のためにはプラスチックよりも木のまな板を使うと切れ味が落ちにくくなる。包丁の研ぎ方や扱い方まで丁寧に教えてくれる栗須さん。子供たちが3人いるが、後継ぎの予定はないという。黙々と鉄に向き合い、手塩にかけた刃物への思いは我が子同様に強いだろう。





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小槌やタガネなど、道具はすべて手作り。画像上部左の柄ばりは、柄が入る部分に穴を空ける道具。右横の印で刃に作り手の記しを刻む

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(左から)刃物の外側となる鉄、中に入れるハガネ。型造り、焼き入れ、仕上げと、順番に刃物らしさが表れてくる

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(左上から)小枝などを切り払いながら山歩きするための登り鎌と、伝統的な形状の土佐ナタ。(手前から)片刃と両刃の出刃包丁、長さの異なる刺身包丁と野菜包丁【※作家さん所有の作品です】

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