main_papa_6071#CA29.JPG刃物
鋸刃物鍛冶 岡秀
岡 正文-人吉市-

1956年熊本県人吉市生まれ。
高校卒業後、兄とともに父に師事。鋸鍛冶の修行をしていた矢先、兄が急逝。
家業「岡秀」の2代目となる。2008年「森の名手・名人」に認定。


鋸(のこぎり)といえば、型押プレスによる大量生産。すっかりそんなイメージだったが、こちらのは明らかに違っていた。刃先の並び方に目を凝らすと、実に巧妙な手仕事だと分かる。1目づつ左右に歯を振り広げた横鋸(のこぎり)刃で木の繊維を裁断し、垂直の縦鋸刃が残りを削り取る。その横に、おが屑を逃がす湾を設けることで、縦挽きにも横挽きにも抜群の切断能力を発揮する。高い技術を要するこの改良刃を作っているのが、人吉市『岡秀』二代目の岡正文さん。九州で唯一の鍛治師だ。

 6人兄弟中5人が鋸鍛冶師という環境で育った父を師と仰ぎ、高校卒業後に仕事を手伝っていた矢先、跡取りになるはずの兄が亡くなった。代わりに家業を継ぐ決心をしたのは23歳のとき。先代と2人で鍛冶屋を営むが、先代が倒れてからは一人きり。まわりにも鋸鍛冶をする人がいないため、残った道具や完成品を研究しながら試行錯誤を重ねてきた。

 安来ハガネを鍛造し、金床でカタチを整えてから形成、目落とし、荒目立て、焼入れ、焼き戻しなど17もの工程を必要とする鋸鍛冶1本につき約65の目数を付ける目落としは、両側の角度を微妙に内側にすることで力が集中するよう調整。なかでも「これが出来ないと鋸鍛冶師にはなれない」という作業が、歪(ゆが)み取りと目立てだ。一作業ごとに生じる歪みやねじれを、歪みヅチで叩きながら折り合いをつける。歯の1本ごとにヤスリや砥石で角度を修繕していく目立ては、最低でも3回は必要だ。

 これだけの複雑な工程を要する鋸鍛冶だが、チェーンソーが普及してからは需要が大幅に減少。一貫生産による鋸鍛冶の技術そのものが消えようとしている。「熊本に6軒あった鋸鍛冶屋もここだけとなり、私のところも包丁や草刈鎌で補いながら、本業の鋸鍛冶を続けている状態。個人だけで技術を残していくには限界があるのかも」。そう語る正文さんだが、
「朝から晩まで鋸鍛冶に明け暮れた私の若いころと比べると、練習するだけの数がないのが悩み。しかし息子がやると決めた以上、伝えられるものはすべて伝えたいですね」。気っ風のよさで、作り方を懇切丁寧に教えてくれた岡さん。その表情は終始明るく、こちらが元気づけられるほどだ。たとえ需要は減ろうとも、全国の山師が「といえば岡秀に限る」と信頼を寄せる。

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鋸の材料、安来鋼(やすきはがね)


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握りあとが残る歪みヅチ(左)や腰入れヅチなど(左から2番目)など、年季の入った道具が並ぶ。父の代から受け継ぐ金床(かなどこ)の上で鋸を叩き、歪みを取っていく

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▼手元

1本ずつ角度や間隔を計算しながら歯の目を落とす

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刃先

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(手前から)父・正文さん作の手曲鋸鞘付、ピストル鋸鞘付。根取りフック、ハイス鋼包丁は息子・敬志さんが手がけたもの
【※作家さん所有の作品です】