main_6158.JPG【肥後象がん】
雅号:光利
東 清次-熊本市-
1952年生まれ。1971年、肥後象がん師河口知明氏に師事。1978年に独立。1980年、第4回伝統的工芸品産業振興協会賞受賞をはじめ、受賞歴多数。肥後象がんの伝統である布目の技術を磨き、現代のニーズにこたえる作品を目指す。

 肥後象がん師が口をそろえて「もっとも技量が試される工程」と語る布目切りも、東さんの手にかかれば寸分の狂いなく精密に刻まれていく。鉄生地にタガネを細かく打ち込んで表面をヤスリ状態にして、金銀の細工を打ち込むのが、肥後象がんの特徴でもある。

「布目がキレイに入っていないと金銀をうまく打ち込むことができず、剥がれてしまいます。目が細かいほど、繊細な文様が入ってすっきりと美しく見えます。」

細工をしたあと、まわりの布目を棒でキレイにつぶすと細工が一層引き立つが、こちらも腕の良し悪しが分かるため、気の抜けない作業だ。

 19歳から肥後象がん一筋で技を究めてきた東さん。兄の友人である肥後象がん師・河口知明氏に師事し、7年間修行した。ペンダントやタイピン、カフスといった装飾品から、ペーパーウェイトやペン立て、しおりといった文具までレパートリーは幅広い。金銀で施す細工の文様は注文によってさまざまだが、金銀の板からこれらの形を抜き出すのに欠かせないのが、金型(かながた)。パーツにあわせて鉄の棒を彫り込んで作るが、家紋などのように特殊なものだと、せっかく作っても1回限りという場合も。ちなみに取材時に作成中だったしおりは、九州新幹線がモチーフ。「窓や扉など、金型づくりだけでも2日がかりです(笑)」。米粒よりも小さな小窓やライトまで型を作る。


 全国的には京都の象嵌が有名だが、肥後象がんとは違いがあるという。それは、金銀の文様が浮き上がってみえる立体感。京象嵌と比べて、肥後象がんで使う金銀の厚さは倍以上の0.08㎜。数字だけ見ると薄く感じるが、つまんでみると板状の感覚が残る。

 東さんの場合、鉄の板や塊から切り出したり曲げたりと、土台となる鉄生地の成型から自ら手がける。完成したものは渋い錆色を帯びた鉄地だが、よく目を凝らして表面を見るとゴマ状の斑点が見える。これは、さびが上手く出た証し。さび出しは特別な液を塗ったまま時間を置いてさびを出し、それを拭き落としては理想の色になるまで作業を繰り返す。湿気や気温によって回数や時間の見極めも変わるため、さびをうまく出すのも経験がモノをいう。このあと、お茶で煮出してタンニンの作用でさび止めし、より黒さを引き出すために油煙(スス)と油を混ぜたものを何度か塗り重ねて焼き付け。銀色だった鉄生地は、深みを帯びた重厚な黒へと姿を変える。

「私は師匠に学んだやり方を忠実に守り続けてきただけ。時間がかかって割に合わないかもしれませんが、子や孫にまで肥後象がんの良さを、これからも伝えていきたいですね。」

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金、銀、青金(合金)の板や金糸で象がんなどの細工を施す。東さんの場合、土台となる鉄の成型から自ら作成

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タガネを4方向から均等な幅と角度で打ち込む布目切りで、腕の良し悪しが一目で分かる

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ずれないようにはめ込んでいくのが職人技

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(手前から)金銀の象がんでちどりと波を表した香合、トンボのペーパーウェイト、古典柄を現代風にアレンジしたチョーカー、枝葉をあしらったペン立て【※作家さん所有の作品です】