main_4700.JPG【陶磁器】
蒼土窯
前田 和(かず)-宇土市-
1944年熊本市生まれ。熊本大学教育学部美術科卒業、佐賀大学教育専攻科(工芸)修了。愛知県窯業職業訓練校卒業後、愛知県瀬戸市で修行、独立。スウェーデンやデンマークでの制作活動を経て、ニューヨーク、東京、名古屋、愛知などさまざまな企業や学校、個人宅の陶壁を制作。さらに、耐久性2000年を目指した陶社3棟の制作。2009年新JR宇土駅(熊本県)東口モニュメントを手がける

 「草花からもらった命。髭根や葉脈の1本1本まで大切に思いながら制作しています」とは、宇土市下網田の山腹に蒼土窯を構える前田和さん。一見、本物と見まがうほどにイキイキと再現された陶板は、前田さんが独自に生み出した「草木捺彩陶(そうもくなつさいとう)」という焼物。

 平らな粘土の上に草花を押し当てて型を取り、素焼きした後に残った草花の僅かな凸凹に鉄や呉須など焼物用の絵の具で彩色して1300℃の高温で焼成すると、まるで草花が浮き上がったように見える。草花をより本物らしく立体的に見せるため、奥側にくる葉の幅を狭くカットしたり、葉の裏側を上に重ねて折れた部分を表現したりと、実に精密な作業だ。

「米粒やもみ殻など、何かを押し当てて模様を付けるという技法は縄文式土器の時代からありますが、これに彩色をしているのは私ぐらいではないでしょうか。」

本物の草木同様に細部まで彩色を施すのは大変難しく、色がはみ出さないよう絵の回りにマスキングをかける。糊やロウなどで試行錯誤を重ねた結果、偶然目にした化粧品のテレビCMをもとに、顔用のパックでマスキングすることに。現在は背景と絵に分けてゴム状に変わる陶画糊でマスキングを施し、それぞれ本焼きを行っている。薄い鉄の成分が含まれる泥を水に溶いたものをかけることで、色に深みを出すのもポイントだ。粘土は瀬戸の粘土に天草陶石をブレンド。陶板は反れないよう平らに焼き上げるのが大変難しいが、前田さんはシャモットという焼粉を使ってこれを可能にした。

「さらにこの技法を高めて、誰も真似ができない域まで確立していきたいですね。」

モニュメントなどの大作から陶板、食器まで幅広く手がけている。

 かつては教職の道を志し、子供たちに美術を教えていたが、「ピカソやゴッホなど教科書に登場する人は皆、何かを最初に始めた人だったんです。自分も誰もやらないことをやらないと歴史に埋もれてしまうと思って。完成するまで10年かかりました」。

 焼物の本場である愛知県瀬戸市で修行後に独立。静かな環境で焼物に没頭したいと、現在の熊本県宇土市網田町に移住した。オリジナルの焼き方を追究する一方、1700年代に元肥後藩献上窯だった網田焼の研究、復興にも取り組んでいる。道路や田んぼが広がる網田町一帯にはかつて海が広がり、船で運ばれてきた白磁の高級原料・天草陶石を水車の石臼で砕き、網田焼が作られてきた。

 長い年月をかけて復元されたその姿は、光に当てると向こう側が透けて見えるほど薄く、まるで貴婦人のような気高さ。型物が基本だが、工程に大変手間がかかるため、手がける数は全体の1割にも満たない。いずれの焼き方も、前田さんにしかできない努力の結晶。“オンリーワン”を目指す意味を考えさせられた。



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陶板をならすヘラは、時計のバネを応用したもの。粘土に溝を入れたり修正をする竹ベラ、自然な葉のカーブを作るハサミ、カッターなど

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30種類以上の絵の具や釉薬を使い分ける

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粘土に草花をのせ、紙の上から均一に押し当てて型を取る

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マスキングを施した陶板に絵の具で彩色。水筆で巧みに濃淡を表現していく

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まるで本物のように虫食いや葉の折れ具合まで表現された(左から)タデ、ヨウシュヤマゴボウの陶板
【※作家さん所有の作品です】

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