main_4782.JPG【屏風・表具】
魚返豊洲堂
魚返 倫央(うおがえし みちお)-人吉市-
1966年熊本県人吉市生まれ。高校卒業後、『東京表具』に丁稚奉公として入社。同時に御茶ノ水高等職業訓練校表具科へ入学。1991年退職後、魚返豊州堂入社。表具・壁装の一級技能検定に合格。2003~2005年に熊本県代表として技能グランプリ出場。2007年には同グランプリで4位。人吉市民大学表具教室講師など。2010年経営革新計画として承認される。

  大正6年創業の『魚返豊州堂』。3代目・魚返秀喜さんの後を継ぎ、表具・表装・襖の製作と修復を一手に引き受けているのが4代目・倫央さんだ。表具・表装と言っても掛け軸や扁額、屏風、さらには書画の種類によっても手法が異なり、工程は多岐にわたる。

「最近はタペストリー感覚で飾る掛け軸など、インテリアとしての表装も手がけています。」

 掛け軸の場合、作品(本紙)に適した裂地(きれじ)を選ぶ“色合わせ”で完成品の印象が大きく左右する。数百種類もある西陣織のストックの中から適した裂地を選ぶのは、美的感覚が問われるところだ。しかも仏画の場合、描いた僧侶の流派や階級によっても使う柄まで決まっているという。

 縮みや反りを防ぐため、本紙や裂地に水をかける“水引き”の後、裂地の後ろにあざやかに和紙を付ける肌裏打ち。顔彩や墨のにじみを防ぐためニカワにミョウバンを添加したドウサを乗せたり、引き裂いた和紙繊維(喰い裂き)の毛羽同士を重ねて裏打ち紙を継ぎ合わせたりと工程はまだまだ続くが、どの手順も気の抜けない作業ばかり。「掛け軸には神宮仕立や大和仕立など、さまざまありますが、最も腕を試されるのが茶室用の茶掛(ちゃがけ)。ほかの掛け軸とは異なり本紙(作品)が裂地の上にくるため、高い技術を必要とします」。

 こうした製作作業と並行して文化財修復の研究も行う倫央さんのもとには、歴史的価値の高い掛け軸などの修復依頼が全国から寄せられる。たとえば仕立て直しの場合、作品部分(本紙)のみを切り取って裏打ちをはがし、アルカリ水で洗浄。さらに水でアルカリ水と汚れを洗い落とし、新しい裂地とあわせれば、くすみや汚れだけが見事に消えている。

「あまり美しくなり過ぎてもいけないんです。私たちの仕事は、傷みを修復して自然に月日を経た状態に戻すこと。主観を入れず、まっすぐに仕事をすることが大切です。」

 昔からこうした修復技術は、口伝(くでん)によって継承されてきた。しかし倫央さんは化学的手法でこれを数値化するために数々の実験を重ね、その成果を学会などで発表してきた。

「技術を数値化すれば、より確実な修復作業を誰もが出来ますよね。材料はできる限り、環境に優しいものを心がけています。」

教えを乞われれば、惜しみなく披露する。こうした志の高い人物がいてこそ、伝統は守られていくのだろう。

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紙切り用の包丁や木材を切る包丁、表装に用いる刷毛など。襖は骨組みから作っているため、大工道具もそろっている

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金糸入りで絵柄も豊富な西陣織の裂地(きれじ)【※作家さん所有の作品です】

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『いせ辰』のハンカチをアレンジしたデザイン掛け軸【※作家さん所有の作品です】

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