くらしと工芸Vol.4 (2019.8.4)
「くまもとの匠の風土を語るものづくり 肥後象がん編」
県内各地の伝統工芸をご紹介する「くまもとの匠の風土を語るものづくり」。第3回となる今回は、肥後象がん(ひごぞうがん)をご紹介します。
武家を魅了した「肥後象がん」
西アジアで生まれ、シルクロードを伝って日本へやってきたといわれる象嵌細工。金属や陶磁器・木材などに模様を刻み、異素材をはめこむ工芸の技法で、日本でも金工象嵌や陶象嵌など、さまざまな象嵌細工がつくられています。
(鉄に細かい模様を刻む、布目切りの工程)
(布目切りしたところに金や銀を埋め込む)
なかでも、日本を代表する金工象嵌のひとつとして知られるのが、「肥後象がん」。江戸時代の初め頃、鉄砲の銃身や刀の鐔(つば)の装飾として施されたのがはじまりです。
(タガネを使って模様の細部を整える)
(錆出しの工程。温度や湿度によって錆の出方が変わるそう)
肥後藩で文化人としても知られる細川忠興公は、林又七ら優れた匠たちを抱えて技術発展に努めました。重厚感と繊細さを併せ持つ肥後象がんは各地の武士たちを魅了し、その名が全国的に知られるところとなったのです。
「肥後象がん」の第一人者 坊田透さん
(この道60年以上の経験を持つ、肥後象がんの第一人者 坊田透さん)
明治時代の廃刀令によって刀鐔の需要こそなくなりましたが、その伝統は、茶道具やアクセサリーなどに形を変え、今もしっかりと受け継がれています。
熊本市で肥後象がん作家として活躍する坊田透さん(ぼうだとおるさん、雅号:永芳)も、その技術を受け継ぐ伝統工芸士のひとりです。終戦間際に家族で母の実家のあった熊本へ移り住み、数々の名匠と呼ばれる作家らに師事して、腕を磨きました。
(坊田さんの布目切りは、1mmに満たないものも)
この道60年を超える熟練の技が生み出す細やかな意匠。一般的な肥後象がんは、黒地のものが多いのですが、坊田さんは独自の製法で、赤や緑などの新しい色彩も手がけます。日本古来の文様や季節の野山の風景、山水画など、肉眼では見えないほどの緻密な細工で表現される作品は、まさにため息ものです。
(生き生きと表現される、春夏秋冬の風景)
(お客様の要望から生まれたリング)
近年は、カフスボタンやネクタイピン、インテリアのほか、帯留やペンダントといった身近なアクセサリーも作られるようになりました。季節感を取り入れた作品も多く、贈りものはもちろん、ファッションとして楽しんでみるのもおすすめです。
(木下真弓)
【参考商品】
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