(八代市)
インタビュー記事(2010年頃)
端午の節句。青空を勇壮にたなびく鯉のぼりと武者絵のぼり。八代市鏡町で染物全般を扱う平本染工場では、今も昔ながらの手染めで五月節句のぼりを作り続けている。
「もともとは大漁旗やのれんを作っていたのが始まりと伝え聞いています。戦後は安価な機械染めに押されましたが、高度成長期に入ると“高くても良いモノを”という風潮に。以来、今でも手染めのほうが人気です。」と、3代目の平本靖二さん。
プリントとは異なり、布の両面から彩色を施していくため表裏どちらから見ても美しく、手作業ならではの独特な表情が生まれる。色彩も鮮やかで顔の表情などに微妙なぼかしをかけられるのも、手染めならでは。
五月節句のぼりには、日光に強い樹脂が染料として使われる。手彫りの型紙の上から糠(ぬか)や餅米で作った防染糊を引き、刷毛(はけ)を使ってベテランの職人たちが鮮やかな彩色を施していく。微妙なぼかしをかける人の顔や、刷毛(はけ)で一気に描き上げる虎などの絵柄には、とくに神経を使うという。全長8mあまりの節句のぼりに描かれるのは、加藤清正の虎退治や大坂夏の陣、関ヶ原の戦いといった、勇壮な武者絵が時代を問わず人気が高い。彩色が終わったのぼりに加熱処理をした後、地下水からひいた水で防染糊を洗い流すと絵柄の輪郭が白く浮き上がる。これを天日干しして顔などを描き込めば出来上がりだ。完成品には家紋や銘を入れてもらえる。
「少子化の影響や住宅環境の変化で、金箔を施した絢爛豪華なものか、団地のベランダ向けのコンパクトサイズに二極化しています。」と、平本さん。
強くたくましく育ってほしいとの願いを込めて、幼い子供へと贈られてきた五月節句のぼり。環境やカタチは様変わりしても、絆の象徴ともいえるこの伝統は続いていくことを願いたい。