インタビュー記事(2010年頃)
熊本県南部の人吉市。相良藩時代は数十軒に及ぶ鍛冶屋を城下町に集め、戦が始まると武具を作らせていた歴史があります。人吉球磨地方には今もいくつかの鍛冶屋が点在していますが、なかでも国道219号沿いにある「蓑毛鍛冶屋」は、寛政以前の時代から数えて200年以上、火を絶やすことなく鍛冶を続けてきました。80歳後半に入った今なお現役の8代目・裕さんが鉄を鍛え、息子で9代目の稔さんがそれを仕上げます。
制作の中心は家庭用の料理包丁ですが、加えて人気を集めているのが、稔さんが考案したデザインナイフ。革鞘に収められた刃は、小型ながらカーブに沿ったシャープな刃先が鋭く光り、柄の部分の鉄がズシリと重厚感を醸し出しています。使うのが惜しくなるほど優美なデザイン性に富んでいて、昔ながらの割込み鍛造によるその切れ味に、疑う余地はありません。
今は、海上自衛隊に入隊していた息子の勇さんが、物づくりへの思いを断ち切れず、人吉に戻り10代目として家業に専念しています。