鋸といえば、型押プレスによる大量生産。そんなイメージの方が多いと思いますが、岡さんの鋸は明らかに違います。刃先の並び方に目を凝らすと、実に巧妙な手仕事だと分かります。1目ずつ左右に歯を振り広げた横鋸刃で木の繊維を裁断し、垂直の縦鋸刃が残りを削り取ります。その横に、おが屑を逃がす“湾”を設けることで、縦挽きにも横挽きにも抜群の切断能力を発揮します。高い技術を要するこの改良刃鋸を作っているのが、人吉市『岡秀』二代目の岡正文さん。九州で唯一の鋸鍛治師です。安来鋼を鍛造し、金床で形を整えてから形成、目落とし、荒目立て、焼入れ、焼き戻しなど17もの工程を必要とする鋸鍛冶。鋸1本につき約65の目数を付ける目落としは、両側の角度を微妙に内側にすることで力が集中するよう調整。中でも「これが出来ないと鋸鍛冶師にはなれない」という作業が、歪み取りと目立てです。一作業ごとに生じる歪みやねじれを、歪みヅチで叩きながら折り合いをつけます。歯の1本ごとにヤスリや砥石で角度を修繕していく目立ては、最低でも3回は必要です。