一鬼 幸恵

【ガラス】
一鬼 幸恵(いっき さちえ)
-南阿蘇村-

 

1969年神奈川県神奈川市生まれ。
専門学校でプロダクトデザインを学び、卒業後は手仕事に憧れ、小樽のガラス工場で4年間修業。
1997年阿蘇郡白水村(現南阿蘇村)に移住、「GLASS IKKI」を構える。
再生ガラスのカップやバーナーワークで作るアクセサリーなど、女性らしいフォルムの作品を生み出している。

 

南阿蘇村一関。集落の一軒家で、相棒の愛猫2匹と暮らすガラス作家の一鬼幸恵さん。展示会から戻って来たばかりの作品たちが所狭しと並んでいた。ぷっくりとかわいいフォルムのハチミツ入れや塩入れは、活動を始めた当時から取り組んでいる再生ガラスで作った吹きガラス。「再生ガラスはクセがあって難しいですが、色や質感が好きで、あえて着色を施さない作品を作っています」。材料となる空き瓶は、近所の居酒屋に頼んで分けてもらったり、ゴミ収集日前に捨てられたものを取りに行く。「米どころなので、使うのは米焼酎のボトルが多いですね。ガラスの成分が違うと割れやすいため、同じ種類のみ使います。ガラスは固まるとくっついてしまうので、とくに蓋物はスピーディーに作業を行います」。

 

 神奈川県出身の一鬼さんだが、ガラスに魅せられて専門学校でデザインを学んだ後、北海道の小樽で4年間、吹きガラスを学んだ。「自分のガラス工房を持ちたいと思っていたんですが、北海道は組織的な大きい工房が多かったんです。個人規模のガラス工房を見て歩こうと九州を訪れたとき、たまたま阿蘇に知り合いができたこともあって移り住むことに」。現在は南阿蘇村で毎年10月に開催される「谷人たちの美術館」に参加したりと、すっかり阿蘇の暮らしにとけ込んでいる。

 

 そんな一鬼さんが、新たに始めたのがバーナーワークによるガラス細工だ。「吹きガラスをずっとやってきたので、トンボ玉のように穴が空いたものを作るのは、まだまだ勉強中です」。とはいえ、でき上がった帯留めやかんざし、ペンダントは、いずれも女性心をくすぐるものばかり。丸いガラスの中に可憐な花びら模様が幾重にも閉じ込められているように見えるが、これもアウトサイドインという手法の一つだそう。

 

 ガラスは突然の温度変化に弱いため、バーナーでガスを酸素を調整しながら、500℃ほどにまで徐々に熱を加えていく。素材の棒ガラスが溶け始めたら銀などを付着させ、高温であぶっていくと表面張力で凹凸が丸くなじんでくる。これを延ばしたりねじったりしながらガラスの中に複雑な模様を入れていく作業は、ずっと見ていても飽きない。“マイペースで無理をせずに仕事ができれば”という一鬼さん。スローライフから生まれる心の余裕が、温かみのあるガラス作品を生み出しているのだろう。