インタビュー記事(2010年頃)
森の木立に囲まれた阿蘇の山中に佇(たたず)む建物は、まるで絵本の世界。染織家・吉村美子さんの住まいには宿や工房もあり、家具職人であるご主人の椅子や吉村さんのタペストリーなどがセンスよく飾られている。
出身地の沖縄で学んだ織りと染めの技法をそれぞれ生かした作品を手がけるが、染色は草木染めを中心に、筒描き(つつがき)で沖縄の伝統文様やオリジナルの文様を描いていくのが特徴だ。
筒描きとは、筒に餅粉とヌカで作った糊を入れ、先端の筒金から少しずつ押し出して文様を描くように糊置きして防染する手染め技法のひとつ。糊が乾いたら草木を煮出した染料で色を入れたあと、蒸し器で発色と定着を行い、水洗いをしてアイロン掛け。染料として用いるのは、庭で拾った栗やクルミなど季節の草木や皮と、京都の染料をあわせて使う。
吉村さんがおもに用いる媒染剤は台所でも使えるミョウバン(アルミ)と鉄だが、同じ染料でも媒染剤によって黄色、赤、黒と発色が大きく変わるため、草木染めのバリエーションは想像以上に幅広い。タペストリー、のれん、ショールなどをオリジナルやオーダーに応じて作っているが、デザインおこしから始めて完成するまで1週間以上はかかるという。
一方、織物は絹を使った着物の帯などシックな印象。
「産地によって絣など織り方は色々ありますが、私は花織が好きで」という花織(はなおり)は、縞の中に小花模様を浮き織りにした織りの技法で、一見一枚の布とは思えないほど立体的に見える。デザインはすべて糸の配分を計算して設計図のようなものを作り、必要に応じた長さの糸を用意。
「着物など緻密なものになると使う絹糸は細くて均一でないといけません。機織へ糸をかける作業も手間がかかり、糸の通し間違いが1つでもあれば、やり直し。機織にかけるまでの仕事が作業の大半といえますね」
生地の密度を決めるオサに1000本以上の経糸を通し、花織の文様に応じて綜絖(そうこう、経糸を引き上げる装置)を新たに足していく。本当に好きでないと、途中で投げ出したくなるほど緻密な作業だ。
「大切に作った作品をお客様に喜んでいただけるのが、一番嬉しいですね。」