インタビュー記事(2010年頃)
上野友子さんが草木染めに魅せられ、独学で始めて20年が経つ。
「介護をしていた母が亡くなり、何かやりがいを見つけなくてはと思って。もともとファッションが好きでしたから、洋服を自分の好きな色に染めてみようと思い立ちました。」専門書を開き、試行錯誤を繰り返す日々だったが、苦労というより“理科の実験のよう”に楽しみながら、成功を積み重ねていった。
草木染めを始めて半年後、早くもチャンスが訪れた。絞りを入れたタペストリーが「くらしの工芸展」を受賞。その後も連続受賞を果たし、審査員が作品を気に入って購入してくれたことでプロでやっていく自信がついた。当初はテーブルセンターやタペストリーなどが中心だったが、最初のきっかけでもある洋服を染めることに。現在は、洋服のデザインも自ら行っている。「裁縫も独学で。最初は外注していたんですが、細部にまでこだわろうとすると意思の疎通が難しくて。家事をしているときや運転中など、つねにデザインを考えていますね」
自宅兼工房の上野さん宅には思い立ったときすぐに作業に取りかかれるよう、麻や綿の白生地がリビングに置いてある。最初に洋服を作り、イメージあわせて染める原料を決める。上野さんの手で縫製から草木染めまで施されたロングカーディガンやワンピース、コートに麻パンツなど、どれもセンスが良い上に着心地がよさそうな一点ものばかりだ。
草木染めの主な工程は、最初にステンレスボウルで原料を煮出し、色が出始めたら液だけ取り出し、また水を加えて煮出す作業を3回ほど繰り返す。これを一つにあわせれば染料液となる。玉ねぎ、山桃、ザクロ…美味しそうな響きだが、これらはすべて草木染めに使う原料だ。水に濡らした布をこの染料液の中で10〜20分ほど煮染めして水洗い。鉄分などを溶かした媒染剤に20〜30分浸けると、金属イオンと色素が結合して発色する。「原料が同じでも、媒染剤によって発色がずいぶん異なるんですよ」
出したい色になるまで作業を繰り返せば、草木染めならではの優しい色合いが生まれる。原料の採取時期や気温でも発色は左右されるため、二度と同じ色は出来ない点も魅力だ。 制作活動の傍ら、小学校の子供たちや老人ホームの高齢者を対象にした藍と草木染めの体験教室も行っている。ビー玉を輪ゴムで布に包んで染めると、白いぼかしが浮び上がって本格的な絞り染めにも見える。
「子供たちには将来の選択肢が増えるきっかけとして。高齢の方には、楽しみづくりの機会になれば。私自身、皆さんの笑顔がやりがいになっています」