インタビュー記事(2010年頃)
大正6年創業の『魚返豊州堂』。3代目・魚返秀喜さんの後を継ぎ、表具・表装・襖の製作と修復を一手に引き受けているのが4代目・倫央さんです。表具・表装と言っても掛け軸や扁額、屏風・・・。さらには書画の種類によっても手法が異なり、工程は多岐にわたります。「最近はタペストリー感覚で飾る掛け軸など、インテリアとしての表装も手がけています」掛け軸の場合、作品(本紙)に適した
こうした制作作業と並行して文化財修復の研究も行う倫央さんのもとには、歴史的価値の高い掛け軸などの修復依頼が全国から寄せられます。例えば仕立て直しの場合、作品部分(本紙)のみを切り取って裏打ちをはがし、アルカリ水で洗浄。さらに水でアルカリ水と汚れを洗い落とし、新しい裂地と合わせればくすみや汚れだけが見事に消えています。「あまり美しくなり過ぎてもいけないんです。私たちの仕事は、傷みを修復して自然に月日を経た状態に戻すこと、主観を入れず、まっすぐに仕事をすることが大切です」昔からこうした修復技術は、口伝(くでん)によって継承されてきました。しかし倫央さんは化学的手法でこれを数値化するために数々の実験を重ね、その成果を学会などで発表してきました。「技術を数値化すれば、より確実な修復作業を誰もが出来ますよね。材料はできる限り、環境に優しいものを心がけています」教えを請われれば、惜しみなく披露する。こうした志の高い人物がいてこそ伝統は守られていくのでしょう。