インタビュー記事(2010年頃)
南阿蘇村の国道325号線からペンション村方面へ曲がって山道を登ると、ドラマ「北の国から」を彷彿とさせるプレハブの作業場が見えてきます。中から現れた兼丸民夫さんもまた、素朴な笑顔が似合う人です。
前職を辞め、職業安定所でたまたま目に留まったのが職業訓練校の募集でした。
「軽い気持ちで木工科へ進んだのですが、これがおもしろくて。そのまま家具作りにハマっちまったんですよ」
修了後、すぐに独立して作業場を構えたのは35歳でした。
「家具業界は斜陽産業でしたが、せっかく好きな仕事を見つけたのだからダメもとでやってみようと思って」
数々の家具を手がけるなかでも、とくにこだわって続けているのがロッキングチェア。背もたれから座にかけて木が美しいカーブを描き、座ると体のラインになじんでゆっくりと揺れ始めます。
「木の薄板を大きなセイロで蒸して曲げ、身体の動きになじむよう調整しています。
兼丸さんが家具を作るとき、特に意識しているのが“
「実用品でありながら、彫刻のように佇まいが美しい “用と美”を意識しながら作っています」
我が子同然に手塩をかけて育てた家具たちが手元を離れ、新しい主の部屋に置かれたとき、そのイスがどう生きるかを想像しながら作っています。
「“こんな物を作りたいんだけど、どうかな?”なんて、木と相談しながらやっています。何せ相手は自然のものですから」
掃除のとき動かしやすいようにとテーブルの中央に鉄の取っ手を付けたり、アームチェアにちょっとした飲み物や本を置けるスペースを作ってみたりと、使い手の“あったらいいな”をデザインとして組み入れているのも、木と一心に向き合ってきた兼丸さんでこその発想。作業途中のイスに何度も座っては、高さやアームのカーブ具合を確かめながらカンナで微調整していきます。
「面倒だと分かっていても、手をかけてやるのが好きなんです。」
家具への深い愛情が、ひしひしと伝わって来ます。