インタビュー記事(2010年頃)
“田楽の里”として知られる阿蘇郡高森町の山林に囲まれた別荘地。つい見過ごしてしまいそうな脇道に、中根和広さんの「椅子工房・之」がある。飛騨高山の職業訓練校で基礎を学んだ後、北海道で建築を勉強。阿蘇の家具工房で経験を積み、自然豊かで仕事をしやすい環境に惹かれて、阿蘇に家具工房を構えた。その後、椅子作りに特化した現在のスタイルへ。
「椅子が好きでね、自分のやりたいことを突き詰めたくなったんです」釘や金具を使わず、部材の接合部分に凹凸を入れて、組んだり差していくので、部材同士が手足のように自然につながって見える。「外からは隠れる内部をしっかり作ることと、裏側までキレイに仕上げることが手作りの良さだと思います」
木材は良い材料であれば産地を問わないが、家に置いたときに家具として違和感がないか、こだわりをもつ。仕上げはオイルやワックスといった自然素材で、使い込むほどに深い艶が生まれるという。ベービーチェアから3人掛けのベンチタイプまで、注文品とオリジナリティの作品を半々の割合で作っている。
「木は自然のものですから、木材が反ったり膨れたり縮んだりと思い通りにはいきません。個性をうまく家具に作り上げることが基本ともいえますね」中根さんにとって永遠のテーマとなっているのが、“定番作り”。良いと思った椅子は、さらに手を加えてリデザイン。長年かけて満足いくまで完成させていくプロセスは、モノの作り手にとっての醍醐味といえるだろう。
「北欧、中国、ヨーロッパ、国産に至るまで、古くからある良い椅子をたくさん見て、自分なりのデザインを作り上げていきたいですね」奥様の久子さんとは、飛騨高山の職業訓練校で木工のいろはを一緒に勉強した仲。
また、同じ工房で小物中心のクラフト制作を行っているのが妻の久子さん。
出身地の京都で和広さんと知り合い、飛騨高山の職業訓練校では木工技術を学んだ。夫の家具作りの手伝いや、小物制作、販売を手掛けている。それぞの作品を撮影する際、互いの作品の長所をアピールする仲睦まじい姿が印象的だった。