インタビュー記事(2010年頃)
四方を山に囲まれた、人吉盆地のほぼ中央に位置する熊本県球磨郡あさぎり町。この地で工房を構えるのが「工人舎」の福山修一さんです。削り箸やバターナイフ、お盆、椀物から、靴べラや時計などのインテリア小物まで木工品を制作しています。
福山さんの前職はグラフィックデザイナー。東京から帰郷したもののデザイナーとしての仕事は少なく、人吉のある木工房からカタログを依頼されたのが木工の道を志すきっかけになりました。「掲載される商品を目にしながら“ココをこう変えればいい”なんて相手に話していたら、“じゃあ自分でやってみたら”という話になって(笑)。それで、3年間という約束でその工房に入ったんですよ」。こうして3年後は、好景気で物がよく売れる時代に。忙しすぎて辞めるわけにはいかず、2000年にようやく独立しました。
使う木材は桜やケヤキといった広葉樹。「木の仕事に携わる者として、今後は地元の山の大半を占める杉やヒノキを使う必要があるでしょうね」と、限りある資源の将来を見据えます。工房では、端材も捨てずに新たな作品となるまで保管。「効率を考えると良くないと思うのですが、もったいなくて捨てられません」。山から切り出した後最低でも3年以上寝かせた木材を使っています。
小物を作る場合、短時間で大量に作ることができると思いきやそうはいきません。一つひとつ手作りで仕上げるため、スプーンだと1日かけて30本程度。口に当たる部分を丁寧に削り出し、目の異なるサンドペーパーを使い分けて滑らかな質感へと仕上げます。正直、価格に見合わないほどの手間がかかっていることは、実際に作業を目にしないと気づかないでしょう。使いやすさはもちろん、くびれやカーブの美しさまで計算されたデザインに、デザイナーとしてのセンスが感じられます。
「こうあらねばならない、という強いこだわりはないんですよ。ですが、本当に使い勝手が良いものは形も美しいというのが僕の考え。見た目にスマートで使いやすい。そんな作品を目指したいですね」