インタビュー記事(2010年頃)
「“アート”よりも生活の道具としてとらえたモノ作りをしていきたい」と語る「工房 瑞穂」の木工家・中山貴規さん。大学を卒業後、農薬の卸売会社へ就職。30歳で仕事を辞めたあと、もともと興味のあったモノ作りの仕事をしようと決断した。「日頃から生活で使う本棚や物置棚を作っていたので、その延長線のようなもの」と笑う。せっかくなら、より情報や技術の集積があるところで学びたいと、岐阜県高山市の学校で木工の基礎を学んだ。「平面で構成された板に扉や引き出しを付けることで、面が分割して区切られます。このバランスなどを考えるのが楽しくて」
2003年くらしの工芸展では、赤ちゃんを乗せるゆりかごの付いた揺れるベンチが熊日賞(グランプリ)を受賞。県伝統工芸館の収蔵品となっている。また、生家の隣りに構えた工房もすべて中山さんの手作り。それも建築を習ったわけでもなく見よう見まねで作ったというが、天井に巡らせた梁など頑強に出来ている。
現在は、ほぼオーダーメイドの家具が中心。「僕自身にこだわりはないんだよね、今の新築は収納自体が作り付けのことが多いし、こちらの想いと使い手の想いが同じとは限らないから。お客様の想いを聞いて、過去に作った作品例などをもとに図面を引いた後はお任せしてもらうことが多いです」。木材は家具の本場、福岡県大川市から調達。アメリカのウォールナットを好んで使うことが多いという。
漆の手法を織り交ぜた木工品にも取り組んでいる中山さん。今後について尋ねると「仏様を納める厨子を作ってみたいですね。核家族の増加にあわせて、コンパクトで自分が使ってみたいカタチのものを」。ほどよい脱力感をもってしなやかに創作活動を楽しんでいる印象を受けたのは「過去の経験や感動が未来に反映していく。若い人たちも、たくさんの経験をして納得する生き方を選んでほしい」という考えの表れだろう。