インタビュー記事(2010年頃)
海のきらめきを写し取ったように柔らかな波が、白磁の美しさを引き立てる。天草白磁に魅せられ、数々の受賞歴を誇る中本泰博さんが目指しているのは、際立つような白磁の清涼感。絵付けを行わず、カタチや色付きの釉薬で最小限の模様を施す。イメージは、工房のすぐそばに広がる天草西海岸の海。「白磁そのものが美しいものですから、出来る限りその良さを引き出したくて」器の表面に彫刻で凹凸を施し、透明釉の上からブルーやピンクの釉薬をかけると、淡い色が彫刻部分に溜まって幻想的な波や渦巻きが浮び上がる。父が天草陶石の仕事に携わっていたため、幼い頃から佐賀県有田町を訪ねる機会が多かった。自然に焼物の世界へと入っていったという。主に作っているのは使い勝手の良さそうな鉢や皿、飯碗、コーヒーカップなど。「使っていただく方には、飽きがこないと喜んでもらっています」。特注品として壺や大皿、洗面鉢といった大作の依頼も届く。材料となる天草陶石の粘土は、近隣の陶石会社から純度の高い粘土を用途別に選んで使い分ける。また、白磁を引き立てるため、釉薬は透明が基本。天草陶石を主体に石灰石、長石を混ぜ、これに鉄分のケイ酸鉄などを加えて淡いブルーやピンクの釉へとアレンジする。これだけの“白”を完成させるためにも、一番気を使うのがゴミなどの混入だという。「真っ白な素材なので、鉄粉がわずかに混ざっただけでも目立ってしまいます」。親戚の手伝いがあるものの、焼成の際には一人でガス窯に向かい、夕方から翌日まで18時間かけて焼き上げる。「冬は台風に匹敵するほど強い北西の風が海から吹き付けるため、煙突から必要以上に熱量がもって行かれてしまうので、苦労します」。