インタビュー記事(2010年頃)
「本当は焼き締めだけを作っていたいくらいですよ」焼き締めに魅せられ、穴窯を使った焼き締めに情熱を注ぐ戸田勲さん。釉薬を使わない焼き締めは、焼成中に窯の中を覆う薪の灰が器へと降り掛かり、思いもよらないガラス質の自然釉や焦げ、窯変が生まれるのが魅力だ。長年モノづくりの仕事がしたいとの夢を叶えるため、直感的に焼物への道を決めたという戸田勲さん。40歳で脱サラしたあと妻子を残して愛知県で焼物の基礎を学んだというから、ずいぶん思い切った選択だ。瀬戸の学校を卒業したあと、同じく焼物の里として知られる多治見市の窯元で、運命的な穴窯との出会いを果たす。福岡に戻ってからは灯油窯を使っていたが、穴窯でしか出せない景色が忘れられず、広い土地が手に入って人の往来も少ない阿蘇へと移り住むことに。薪を使う窯だと登り窯が一般的、登り窯は天井に上がった炎が床へと回り、均一に焼ける。下の窯が焼き上がるころには上の窯にも炎が回っているため、上の窯へ移動するごとに薪の量は少なく、効率よく焼成出来る。これに対し、穴窯の場合は焚き口から煙突まで炎の流れが一直線に走るためロスが多い。しかしそのぶん、火の回る部分によって焼き色が大きく異なり、おもしろみに溢れている。
「穴窯で一番重要なのは、窯詰め。一窯ごとに燃焼の割合や器の大きさなどで条件が異なりますから、“計算された偶然”をどれだけ導き出せるか。窯出しの際の楽しみでもありますね」薪の場合、窯全体に回った灰が溶けてガラス質となる。そこで器が底にくっ付かないよう、団子という粘土をクッションがわりにして防備する。薪窯を見分ける際には、底に付いた団子の跡が目印となり、さらに火の回り方により器表面に現れる火前と火裏があれば、穴窯で作られたものと推測できるそうだ。薪には高温の炎が長く続く赤松が好まれるが、100時間という焼成時間を要する穴窯だと、用意する薪は背丈の高さまで積み上げて40mに及ぶ。「ある意味、贅沢な焼物ですよ」大分の九重連山まで車を走らせ、みずから赤松を切り出して軽トラック10数台ぶんを往復。さらに薪割りの作業もあるため、焼き締めは1年に1回がやっとの一大イベントとなっている。これだけの労力と時間を費やすだけに、自分自身へのねぎらいも欠かさない。自分好みの猪口を1つだけ、みずからのコレクションに毎年加えている。この猪口で上等な日本酒を味わうのが、自分への小さなご褒美だと教えてくれた。