インタビュー記事(2010年頃)
繊細かつ、デリケート。文窯の主、泉水博文さんの作風がよく表れているのが、枕元や壁掛け用として飾る陶器の照明だ。球体になった表面には無数の穴があけられ、ウサギやサクラ吹雪、モミジなどの模様が彫り込まれている。これに光を灯すとオレンジ色の灯りが四方へと広がり、なんともいえない幻想的な世界を醸し出す。
この球体はロクロで成型した後、先端の尖ったストロー状のポンスという道具で穴を空けていく。一定の湿度を保ちながら、土が柔らかすぎず硬すぎない状態で作業を行うのが難しいところだ。一つでも穴の位置がずれると台なしになってしまうため、常に気を張った状態で1日作業しても、照明1個を作るのに3日がかりだという。この独特の透かし彫り技法は、なんと急須の注ぎ口にある茶こしからヒントを得ている。泉水さんが焼物に携わり始めたのは、1974年のこと。作陶歴30年以上を数え、陶芸教室などを通じて多くの陶芸家を世に送り出してきた。「伝統的な技法を普及させないといけないという思いが長年ありましたし、人に教えること自体も好きですね。作り方や感性は十人十色ですから、人にあわせて教えることは難しくもあり、やりがいでもあります」個性を伸ばす教え方は、かつて生徒の一人だった奥様のお墨付きだ。
「薄づくりで軽く、技術的にハイレベルな作品づくりを目指しています」という自身の作品は、照明のほかに普段使いの器も。コーヒーを煎れるのが趣味というだけあって、コーヒーカップや急須、ティースプーンなどが中心だ。土味を生かしつつ白化粧でアクセントを施した器は、コロンとかわいらしいフォルムが多い。カップをよく見ると小さなコーヒー豆がさりげなくデザインされていたりと、遊びゴコロもたっぷり。このシリーズには、同じ場所で八八窯を営む奥様のデザインセンスが生かされているという。「焼物を始めたころからコーヒーが好きで、最初に作り始めたのがマグカップ。一時期、照明の仕事をしていたこともあって、5年ほど前からは照明も創り始めるようになりました。」
年齢を重ねるうち、大作から精緻な作品へ移行してきたと語る泉水さん。いずれも土をブレンドしたり釉薬の組み合わせを変えることで、違った世界観を生み出している。「長年やってきて、一番好きな工程はロクロづくり。粘土の塊が自分の指1本で、しかもリアルタイムに変化していくのが、おもしろいところですね。」
今後は、もう一つの趣味であるオーディオのスピーカーシステムに焼物を取り入れたいという夢もある。焼物を通じて、仕事と人生の楽しみを実現させている泉水さんの生き方を、見習いたいものだ。