池のほとりに高田焼の工房を構える「高田焼竜元窯」絵描きを目指していた江上元さんですが、結婚を機に作陶の道へと転向。高田焼の窯で7年修行の後、2年間の資金集めを経て手に入れた場所です。八代を代表する高田焼の特徴といえば、高麗青磁に白や黒の象嵌を施したものが知られていますが、土が生乾きのうちに文様を刻んで別の土を塗り込み、余分な部分を削り取るという一連の作業は一朝一夕で出来るものではありません。しかし「丁寧さを心がけてはいますが、象嵌自体は慣れれば出来ますよ。あとは個性や窯の性質次第」と笑います。印鑑を使った古典的な柄から手彫りまでオールマイティにこなす父に対し、息子の江上晋さんは配合の異なる土を巧みに使い分け、現代建築にもマッチする幾何学模様などの近代的な青磁象嵌に取り組んでいます。「建築雑誌からヒントを得ることが多いですね」と語る晋さんは大学では文系を専攻。卒業後、佐賀県有田町の佐賀県立窯業大学校で焼物の基礎を身につけました。日常使いの器づくりと並行して、公募展にも積極的に挑み続け、2019年には難関といわれる日本工芸会の正会員に。
使う土は、地元・日奈久にある竹之内峠から採掘してきて粘土を作ります。「高田焼を作る窯元は3軒しかないため、土が尽きることはないでしょう」と元さん。焼き上がりにムラが出にくいガス窯を使って月1回ほどのペースで焼成。素焼きに約10時間、本焼き15時間を窯の前で過ごします。今後取り組んでみたいことを元さんに尋ねたところ、「作りたい作品は、ふとアイデアが出るときまで自分でも分からない。だけど、ヒントはどこにでもあって、何を見ても気づかない人もいれば、ちゃんと感じ取る人もいる。どんな“視点”を持つかが、大切です」。一方、高田焼の新たな可能性を探る息子・晋さんは「高田焼は長い歴史を刻む伝統的な焼物ですが、昔と同じ物をそのまま作っても模倣の繰り返しに過ぎません。先人が受け継いできた技や作り方を守りつつ、自分たちの手で組み立て直して高田焼の“今”を感じさせるものを作りたいですね」と、若手陶芸家らしい想いを熱く語ります。
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