インタビュー記事(2010年頃)
ソメイヨシノ、アイリス、チューリップ、バラ、ラベンダー…。工房の裏手に広がる自慢のガーデンには、季節の花々たちが咲き誇る。生まれ育った熊本県宇土市で、ご主人の泉水博文さんとともにそれぞれの作品を手がけている田中厚子さん。
工房兼店舗には、工房が建つ小高い丘や、近隣に広がる有明海をモチーフに染め付けした作品が並ぶ。もともとは陶芸教室を営んでいたご主人に師事し、焼物のいろはを学んだ田中さん。その後、実家のミカン畑だった場所に念願の工房を開いた。
器は薄作りが特長で、見た目はふんわりと丸みを帯びた柔らかなフォルムの器が多いが、手に取ってみると意外なほど軽く感じられる。
「素地が薄いと焼成の際に形が崩れやすいため、取っ手部分を窪ませたりして、あらかじめデザインを工夫することで変形を防いでいます。」
灯油を使った窯で焼くが、ご主人が作る文窯の作品が高温を必要とするのに対し、田中さんの作品は中温で焼くと発色が良いため、同じ窯の中で配置を変えて同時に焼成することが出来るため効率が良い。主に手がけるのは食器だが、「ロクロを使って、どういうものをどこまで作れるかが楽しみで。」
新しいカタチを作りたいという思いのままに、最近は木にぶら下げておく卵形のバードハウスなども作っている。また、30年来の付き合いがある漬物屋の女将さんのアイデアで生まれた即席漬け器も好評だ。こちらは小鉢ほどのサイズで蓋が花瓶形になり、水を入れて花を生ければ重しの役目に。この器の中に味付けした野菜をビニール詰めして蓋をすれば、4時間ほどで昆布茶漬けや甘酢漬けが完成。ほかにも、庭に咲く色とりどりの花が好きという田中さんが、最近モチーフにしているのが、見えないほど小さな花。これを新たにシリーズ化して、様々な作品に取り組んでいきたいという。
毎年3月にはガーデンに咲くサクラの下で窯開きが行われ、多くの人たちが生まれたての器と共に、満開の枝垂れ桜やミニライブを楽しんでいる。