インタビュー記事(2010年頃)
古小代の窯跡が残る荒尾市府本周辺には、今もいくつかの窯元が集まっている。小高い丘にこじんまりと佇む「五喜窯」も、その一つだ。坂本喜昭さんは県外で一旦は就職したのち、熊本へUターン。幼いころから好きだったモノ作りの道へ進もうと決心し、実家の近くでもある「末安窯」で焼物のいろはを覚えた。その後、自分らしい焼物の特徴を出そうと試し焼きを重ね、10年近くの期間を経て今の場所に窯を開いた。展示室に飾られた作品を見回すと、まず最初に目に留まったのが、青い器。淡く霞がかった群青色は、まるで深海を表現しているよう。「ちょっと見ていて下さい」そう言いながら坂本さんが器に水を注ぐと、器の青はみるみる変化、青がさらに深みを増して、まるで栄養を蓄えた植物のようだ。この不思議な青のもとは、釉薬に使われている銅。艶消しのため通常だと光沢がないぶん、水分を吸収すると色の変化が分かる。「使えば使うほど、ますます色が引き立ちますよ」青に魅せられたきっかけ。それは、有田の陶器市での一目惚れだった。同じ青色を出そうと何度も試し焼きを重ね、ようやく納得できる色が出たときには10年が過ぎていた。
「色の出し方で一番難しかったのが、掛け方。釉薬を厚く掛ければ色は出ますが、重みで下に垂れて底にくっついてしまいます」多くの人を惹き付ける青を完成させた。「新しいことに挑戦するのが楽しい」と語る坂本さんだけに、土の種類は一つにこだわらず作品にあわせてブレンド。釉薬も出したい景色にあわせて植物の灰を有効に活用している。こうして出来上がった作品は、みかんの灰を使ったモスグリーンの茶香炉や目の覚めるようなコバルトブルーの小皿、かわいい動物たちをモチーフにしたカップや香炉など、まるで焼物のデパートといった楽しさで見ていて飽きない。いずれも手頃な値段なので、同じデザインの色違いで家族それぞれ好きなカラーの食器を揃えるのも、楽しいだろう。